「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
お客様が大切にされていた買取着物は、縁あって着物好きの方の目に留まり、その季節を待って着られることになります。このコラムでは世代や男女の枠を超えて暮らしの中で自由に着物を着こなし、その時間を楽しまれている着物好きな方々に話を聞いていきます。
第8回は、お母様と友だちの着物師匠を指南役にして、これから着物のプラスアルファを楽しみたいという女性に、着物との出合いや合わせたい小物などについてうかがってみました。
▼成人式に仕立てた振り袖<上>
袖を短くして訪問着に仕立て直す。熨斗(のし)模様のやさしい色柄が当時の成人式では珍しく、かえって目立つことに。母からもらった帯と帯締め、草履を合わせて
▼七五三に使った小物<下>
左から、帯揚げ、草履、ビーズバッグ。晴れ着は従姉妹のお古だったため、小物は新調。そんな思い入れもあり手元にずっと置いてある。白のビーズバッグはいまでも着物に合わせて持ち歩く
▲冬の和装コート<左>
母が着ていた厚手ウールの防寒コート(1960年頃の既製服)。前を留めるボタンが大きく、かわいらしいのでもらう。とても温かく、冬に大活躍
▲祖母を思い出す巾着とバッグ
<右上>伯母が祖母の着物端切れ(上部:大正時代のもの)を巾着にして形見分けしてくれた。
<右下>祖母が若い時に持っていたワニ革型押しのバッグ。アンティークな雰囲気が着物に合う。1955年頃購入
着物を着るようになったのは、8年くらい前、年上の友だちに浴衣の着付けを教えてもらってからです。会社帰りに飲むお店で知り合った友だちなんですが、ある時、着付けができるというで、習うことにしました。40歳も後半になって、浴衣ぐらいは一人で着られないと格好悪いなあと思ったんです。浴衣は母から手縫いのものを送ってもらいました。 友だちに浴衣の着付けを教えてもらっていると、「基本は同じだから、これで着物も着られるわよ」と言うのです。箪笥から出してくれた着物を着てみると、ちょっと楽しくなりました。そのうえ、かわいいと思って見ていた赤い帯を「ほしいならあげる」と言われ、帯に合う着物と一緒にいただいたんです。その日を境に着物がどんどん好きになりました。いまではその友だちが私の着物師匠です。
それまで着物を着た記憶といえば、七五三と成人式、親戚の結婚式2回、舅の葬式と5回くらいしかありませんでした。でも母が20年前くらいから日本舞踊を習い始めて、ふだんから着物を着るようになっていたので、私も、いずれは着るのかなとは思っていました。 着物に興味をもってから友人の結婚式にも着て出かけたくなり、母に相談すると訪問着と一緒に紬や練習用も何枚も送ってくれました。 いま手元にあるのは誂えた成人式の振り袖以外、すべていただきものです。着物は母と着物師匠からもらったものが15枚ほどあります。浴衣は5枚くらいでしょうか。 初詣や友人の結婚披露パーティーで着たり、それ以外にも父の七回忌で地味な薄紫色の着物に黒帯を締めて出かけました。ただ、着物は着られても帯のお太鼓結びができないので、帯は母に作り帯にしてもらったものを締めています。でも、浴衣の帯は締められるので、夏の花火大会には毎年、浴衣を着て出かけるようになりました。
着物を着るようになって、発見したことがあります。年を取ると体型をカバーする服に走りがちになるんですが、そういう洋服はちゃんとした感じがしないんですね。それが着物になると体型をカバーしてくれて、しかもきちんと感もあります。それに何といっても、着物を着ていくと手放しで喜ばれることが大きな発見でしたね。
▲シャネルのブローチを帯留めに
30代の頃、香港やハワイ、ニューヨークで買ったシャネルのブローチ。洋服に付けると浮きがちでも、着物の帯留めにするとしっくりモダンになる
▲着物に合わせたいバッグとストール
<左上>左のグレー色の編みバッグはベトナムのホーチミンで。右のプリント柄布地バッグはアメリカのアンティーク生地で作られた1点もので、都内デパートで購入
<左下>ピンクの水玉ストールはベトナムのダナンで
<右上>赤い刺繍ストールはタイのバンコクでピンク色の水玉柄と薄紫色の花柄バッグ。ともにベトナムのホーチミンで買う
<右下>ピンク色の水玉柄と薄紫色の花柄バッグ。ともにベトナムのホーチミンで買う
特に気に入っている着物は、母からもらった薄鈍(うすにび)色に桃色の絣柄があしらわれた紬でしょうか。色が好きで生地に張りがあるので、とても着やすいです。帯では着物師匠から最初にいただいた赤のパッチワーク柄がいちばんのお気に入り。この帯との出合いが着物を着るきっかけになっています。 着物を着るときには、日頃から着物に慣れ親しんでいる母や着物師匠にいろいろアドバイスをもらうようにしています。着物には季節や場所柄など決まり事がさまざまありますが、母から「格式ある場所以外はあまり気にせず、洋服をコーディネイトするように本人が楽しまないとつまらないわよ」と教えてもらいました。
ただ、自分で着物に合わせる帯や半衿を選ぶと、洋服感覚で無地やモノトーンになってしまい、地味になりがちです。これからは朝ドラ「花子とアン」の花子がしていたような着こなしにもトライしたいですね。チェックの着物にチェックの帯や、花柄の着物に花模様の半衿を合わせたり、あと赤いネル足袋にかわいい鼻緒の下駄を履いてみたり、大正時代の色鮮やかなコーディネイトを楽しめたらと思っています。
自分流のこだわりといえば、ヘアスタイルがショートなので、なるべく小さくまとめて大ぶりのピアスをすることかもしれません。次にこだわってみたいのは帯留めのおしゃれ。30歳くらいから海外旅行で、自分のご褒美にシャネルのブローチやピアスを買っていました。ブローチは10個ほどありますが、このブローチを帯留めに使おうといまあれこれ試しているところです。 ほかにアジア旅行で買い集めたバッグやストールなども着物に合わせてもポップでモダンになるなあと…。和の着物に洋や異国情緒のある小物を上手にプラスすると、おしゃれ感がぐっと増すように思います。着物の魅力は、コーディネイトのバリエーションが無限に感じられることかもしれません。 ふだん着用の着物も何枚かあるので、これからは自分が楽しくなる小物使いをプラスアルファして、カジュアルなご飯会にもどんどん着て出かけたいですね。
お気に入りの赤い帯と道行を合わせてみる
着物 | 薄鈍色に桃色の絣柄が入ったおしゃれな紬。光沢があって手触りもよく、着ると気持ちいい。母よりゆずり受ける |
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道行 | 小豆色の道行コート。色味がどの着物にも合って、よく着て出かける |
半衿 | 着物の絣柄色に合わせて桃色の半衿に |
帯 | 赤いパッチワークの名古屋帯。着物師匠からいただいたお気に入りの帯で、いちばん下のパッチワーク端切れとそろいの着物もある。1980年頃仕立て |
帯揚げ | 淡い肌色で帯を彩る |
帯締め | リバーシブルで濃い橙色のほうを表にして締める。母より |
巾着 | 柿色の布巾着。着物師匠から誕生日お祝いにいただく |
金糸入りの牡丹帯を締めて新春を祝う
着物 | 梅柄の小紋。着物師匠からのいただきもので、梅はお正月に着るものと教えられる。1970年頃仕立て |
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半衿 | 白色で品よく |
帯 | 金糸入り牡丹柄の袋帯。母より、1960年頃購入 |
帯揚げ | 着物と帯を引き立てる淡い肌色で |
帯締め | 帯の牡丹色に合わせて赤白色を選ぶ。母より |
バッグ | 20年前にハワイ免税店で買った栗梅色のバッグ。アンティークな形が着物によく合ってしかも持ちやすい |
格調高い鉄色のエナメル草履でしめる
着物 | 母からもらった薔薇色と水色の小紋。洋服感覚でお出かけ用として着ている。1960年頃仕立て |
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半衿 | 白色で着物柄を引き立てる |
帯 | 金糸入り桐花模様の袋帯。格の高い帯を締めて華やかさを演出。母より |
帯揚げ | 着物より淡い薄紫色を合わせる |
帯締め | 帯に合わせて金銀色を選ぶ。母より |
草履 | 鉄色に緑と赤の鼻緒が合わせやすいエナメル草履 |