「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
お客様が大切にされていた買取着物は、縁あって着物好きの方の目に留まり、その季節を待って着られることになります。着物が日常から非日常の空間を演出するようになって久しいですが、いま若い世代が日常と非日常の間で着物を着る機会を増やしているという話も耳にするようになりました。このコラムでは世代の枠を超えて暮らしの中で自由に着物を着こなし、その特別に流れる時間を愛おしく思われている着物好きな方々に話を聞いていきます。
第5回は、自宅であれこれ着物のコーディネイトをする時間が楽しいという美大で油絵を専攻されていた女性に、着物の自分流着こなしやその魅力などについてうかがってみました。

▼母が使っていた浴衣帯<左>
(お気に入りの藍色ラインが入った赤の帯。浴衣はよく着るのですが、こればかりしめるので最近、生地がしんなりしてきた
▼祖母、母、私三代の浴衣<右>
<左>きれいな青地に縞の模様が入った祖母の浴衣。
<中央2枚>藍地に大花柄、波と小花柄が可憐な母の浴衣。
<右>学生の時、自分で購入した赤い桜柄の浴衣

祖母が着物好きで母にも買っていましたので、自宅には着物がたくさんあります。祖母が亡くなって着物も形見分けされたので、珍しい大正や昭和初期のものも少なくないです。母はめったに着ることがなく、箪笥の肥やしになっているのですが、私がときどき着せ替え感覚であれこれ着物を並べて楽しんでいます。私が着物に興味をもつようになったのは、17歳くらいです。小さい頃から絵を描くのが好きでしたが、その頃浮世絵を見ることがあって、そこに描かれている着物の色や柄にとても魅かれたんですね。洋服にない、絶妙なバランスに目を奪われたのだと思います。それで、家の箪笥にある着物を引っ張り出してみるようになりました。小学生時代に日舞を習っていて着物もある程度は着ることができたのですが、箪笥の着物は丈が短く、おはしょりができないんです。そういうこともあってか、ただひたすら畳の上で着物のコーディネイトをあれこれ考えていました。その一人の時間がとにかく楽しくて、いまに続いています。

最近、着物を着たのは昨年暮れで、美大仲間と「王子 狐の行列」に参加したときです。「王子 狐の行列」では参加者全員が着物を着なければいけません。和装で狐顔メイクか狐面をかぶり、大晦日の夜に練り歩くのですが、みんなそれぞれが個性を出して着物を着てきました。着物にブーツを履いてきた友だちもいましたし、日舞を習っていた男子も混ざって男着物をさらりと着流していましたね。
私はそのとき箪笥からおはしょりのできる着物を探し出し、緑色のビビットな着物と赤い帯に格子柄の赤い道行を合わせて、どこか懐かしい雰囲気でまとめたと思います。それまでは見て並べるだけが多かったですが、着てみるとやはり気持ちがいいです。

▼お気に入りの羽織や道行<左>
<左>黒色で雲をかたどった絞り柄が大胆でおもしろい祖母の羽織。モノトーンのコーディネイトに使ってみたい。
<中央と右>丸と四角のレトロな柄の道行、格子柄の赤い道行。ともに母が祖母に買ってもらったもの
▼鏡かけにしている帯<右>
曾祖母が使っていた帯。水鳥が描かれ、鏡にかけると柄がちょうど下にきて、部屋に池ができたようで和みます

着物は、洋服より色や柄の組み合わせを多く楽しめるのが魅力です。洋服では突拍子もない柄と柄との組み合わせも着物ではありですから、発想も自由に楽しめます。それに色味も着物独特で、どんどん重ねていっても野暮にならないおもしろさも感じています。家には大正や昭和初期の着物や帯がありますが、その頃の色柄はモダンに感じるものが多く、特に気に入っています。母にというより祖母が自分用に買っていたものだと思いますが、触ってみてもやわらかく質感もいいです。この時代のものにいま洋服に持ち歩いているバッグを合わせるときもあります。レトロな雰囲気のある現代のものと組み合わせると、逆に昔の着物が新しく見えてくるから不思議ですね。着物の着方については、正式な着付けを習っていないのでお太鼓は結べませんが、そこは帯を文庫結びにするなどして自分流に着こなしています。帯揚げや帯締めもほとんど使いませんし。あまり決まり事にはとらわれずに、着物のもつ豊富な色や図柄の組み合わせの妙を楽しみたいと思っています。

私にとって、着物はコスプレに近い感覚かもしれません。例えば、いつもスーツを着ている人が非日常的な衣装を着たとき、自分の違う一面を発見することがあるでしょう。それと似たように着物を着ると自分のどこかの殻を破ることができますし、ある種の開放感も味わえます。

これからは着物仲間みんなと楽しむ企画だけではなく、一人で着物を着て出かける機会もつくりたいと思っています。以前、渋谷のクラブ帰りに、一人訪問着を着て出てきた女性を見かけましたが、ぱっとそこだけ光が差したかのようでした。さすがに踊っていなかったと思いますが、誰かにエスコートしてもらっていたのでしょう。クラブ空間に着物というギャップが眩しくさせたのかもしれませんが、着物には控えめにしても目立ってしまう、独特の華やかさがあります。私はクラブに一人、着物を着ていく勇気はとてもありませんが、コンサートには着ていきたいと思っています。好きな音楽に合わせてどのような着物コーディネイトをしようか、考えるだけでわくわくしてきますね。
リボンの合成バッグを持って出かけたい

着物 | 水色に紅葉と桔梗の花柄が清らかな小紋。母が祖母に買ってもらったよう |
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半衿 | 着物の地色に合わせ、薄紫のスカーフをあしらう |
帯 | 母が子どもの頃、祖母がよく使用していたという格子織りの帯。よく使っていたからか、肌に馴染んで手触りもやわらか |
バッグ | ふだん洋服に使っているリボンモチーフの合皮バッグを合わせて |
デニム色の帯できりり涼味を呼ぶ

着物 | 母が20代の頃、祖母から買ってもらった紗の着物。白地に薄紫の亀甲柄がいっそう涼しい |
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半衿 | 着物と同系色の白で涼味を重ねる |
帯 | 祖母が使用していた夏の織り帯。デニムの色が淡い紫色の着物と羽織に合うように思えて |
羽織 | こちらも夏用の絽の羽織。淡い紫地色に四角の地模様が入っている |
バッグ | これも母が20代の頃、和装店で祖母に買ってもらったもの。帯の一色と合わせて |
白いストールを加えて大人っぽく粋に

着物 | 大胆に色を組み合わせた縞柄の袷の紬。祖母か曾祖母の着物という |
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半衿 | 着物と帯の柄が目立つのでシンプルに白を選ぶ |
帯 | チェック柄の帯。柄と柄のコーディネイトで派手に。誰が着ていたか不明 |
ショール | はおりものに洋服に使っている白のストールを合わせて。 |
草履 | 母に買ってもらった赤の草履。まだ未使用 |