「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
着物買取のまんがく屋では、お客様が大切にされていた着物を、縁のある着物好きの方に見いだされて、その方のもとで愛でられることを支援しています。いまは着物好きの方がアンティーク・リサイクル着物に、あつらいものや今風の小物などを自由に組み合わせて、いろいろな場面で着物を楽しむ姿を多く見かけるようになりました。このコラムではそうした暮らしの中で自分流に着物を着こなし、その時間を楽しんでいる方たちに話を聞いていきます。
第2回は、織物や染色などの手仕事を趣味にしている着物歴3年目の方に、着物を着始めたきっかけや着こなし術などについてうかがってみました。
▼帯に挿す根付
〈左2つ〉飲み会の時に喜ばれる、生ビールとコロナビールのミニチュア
〈中央〉組紐作家からいただいた鯨の根付。
〈右2つ〉お気に入りのガラス玉とレースのブレスレットを根付として使う
▼四季折々に登場する小物
〈上〉夏の浴衣にもあう本べっ甲のかんざし。
〈中央左から〉旅の季節に幕の内弁当の帯留め。ひな祭りのお祝いにはひし餅。夏祭りには金魚の根付けを飾る。
〈下左から〉五月の節句のお祝いに鯉幟の根付、お花見に桜模様の帯留め、巳の年に蛇の根付けをつける。
子育てが終わって圧倒的な自分の時間ができた時、今までやったことのないことをしたくなったんです。それが2年半ほど前で、日常的に着物を着るきっかけとなりました。
お嫁入りした時には母が着物を10枚ほどあつらえて持たせてくれましたが、箪笥にしまったままで着ることがなかったんです。それが突然、「あっそうだ、着物を着てみよう!」と思い立って、まず着付け教室を探すことから始めました。 すると近くに月2回2,000円で教えてくれるところが見つかり、すぐに通うことに。そして通ってみると、もともと洋服も自分で作るほうでしたから着物の作りそのものに興味が湧いてきて、和裁も習うようになりました。
着物の魅力というのは、何と言っても柄と柄や、格子と格子の組み合わせとか、柄に格子もありという、洋服では考えらない冒険ができることです。 それと洋服以上に季節を楽しめるというか…。着物や帯の素材、柄にはもちろん着る季節がありますが、髪飾りや帯留め、根付などの小物も含めて細部にわたり、着る側が日本の四季を考えるようになっているんですね。 それがとても楽しく、生活そのものが豊かになります。これが大きな魅力です。
着物歴3年目に入った今では、普通に着物を着て出かけています。着付けや和裁教室の仲間うちで自然に着物女子会ができて、月2回着物を着るランチを楽しんでいますし、飲み会やライブも着物女子で集まって出かけることも多いです。 みんなそれぞれの着こなしがすてきで勉強になりますし、着物好きが集まりますから話題にも事欠きません。
母があつらえてくれた着物もあるのですが、値段がはるものなので普段使いには考えてしまいます。今は近くの着物買取店やリサイクル店で、自分好みのお値打ちな着物や帯を購入して、それに自分で作った小物を組み合わせて楽しんでいます。
この夏いちばんに着たいと思っているのは、何とも言えない青緑色の麻の上布(じょうふ)。細い麻糸を平織りしたもので、その昔、絹など動物からとれる素材しか着られなかった貴族が、庶民が着ている麻を暑い夏に着るために作らせたという高貴な麻織物です。この着物に枇杷の葉で染めた帯と竹かごを合わせて、涼しげに着こなしたいと思っています。 もともと織物や染色を趣味にしていたので、帯や帯揚げ、帯締めなどの小物は自分で手づくりしています。それに着物のはぎれを使った洋服づくりも楽しんでいます。和裁はまだ一人前とは言えず、着物は作っていませんが、いずれ自分で仕立てたいですね。でも、着物の構造はわかりましたので、リサイクル着物の色が抜けた衿をほどいてきれいなところを表にするなど、和裁の勉強は役立っています。
▼着物のはぎれで作った洋服
〈左〉ベスト:なでしこ柄の着物はぎれ仕様
〈中央〉ベスト:大正時代の貴重な銘仙のはぎれ仕様
〈右〉スカート:着物仕立ての残り布を組み合わせる
あと亡くなった祖母が大切にしていた黄八丈(きはちじょう)もお気に入りの一つです。これは昭和30年代前半に父が八丈島に出張した際、祖母のお土産に買った反物を仕立てた貴重なもの。黄八丈は八丈島に自生する草木で染めた絹織物で、国の伝統的工芸品にもなっています。今、八丈島で作られる本場黄八丈は呉服屋さんでも手に入れることが難しいと聞きます。黄八丈を着る時は祖母のことを思います。祖母から母へ、そして私と三代にわたって楽しめる。これも着物のすばらしさですね。
着物に馴染みがない方も興味が出てきたら、アンティークやリサイクル着物はお値打ちのものがたくさんありますから、ここから始めてみるといいと思います。夏なら簡単に着られる浴衣もあります。私は、夏のビール会には浴衣によく生ビールの根付をあしらって出かけています。ちょっとした飾りで気分も盛り上がりますし、私自身、遊び心を加える着こなしが好きです。着物はあってもなかなか着物を着る機会がないという方は、二人からでも着物女子会を開くといいですよ。特に夕方以降でしたら、ちょっと帯が曲がっていても気にならないですから(笑)。
将来、私自身タオルをまいて補正しなくても、着くずれがちょうどよく感じられるくらい、着物が自分の体にしっくり馴染むようになりたいです。それはやはり着馴れること、場馴れすることかと思いますから、せっせと着て歩こうと思っています。
また、和裁を学んでいることもあって、今、着物文化にすごく興味があるんです。なぜこのような形になったのか、太古の布をまくスタイルからどう派生したのか。それを知ると、日本独自の着物という衣文化がここまで続いてきた意味、それから私たちが理想する暮らしも見えてくると思うんです。
帯も枇杷の葉で染めた麻を合わせて
着物 | 青緑の上等な麻の上布。東京・国立の着物リサイクル店で3,000円 |
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半衿 | 麻のはぎれ帯:麻の生成を買って枇杷の葉で染める(自作) |
帯締め | 着物リサイクル店で200円 |
帯留め | ガラス玉をアレンジ(自作) |
バッグ | 朝顔柄の布が付いた竹製バッグ |
狩り風景の帯を締めて江戸を楽しむ
着物 | 格子柄の黄八丈。祖母の形見 |
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半衿 | 扇柄の絹 |
帯 | 狩り風景柄。東京・吉祥寺の着物リサイクル店で1,500円 |
帯揚げ | 鯛柄。男物羽織の裏布を買って使う |
帯締め | シルク糸を枇杷の葉で染めて組む(自作) |
カモミール染めの麻帯で涼味を加えて
着物 | 桜と笹柄で紫色の浴衣。東京・国立の着物リサイクル店で2,000円 |
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半衿 | 麻のはぎれ |
帯 | 麻の生成を買ってカモミールで染める(自作) |
帯締め | 市販のバッグ紐に木のパーツを通す |
草履 | テキスタイルショップ「NUNO」の布サンダル |