「買取着物は、縁ある着物好きのもとへ」
お客様が大切にされていた買取着物は、縁あって着物好きの方の目に留まり、その季節を待って着られることになります。 このコラムでは世代や男女の枠を超えて暮らしの中で自由に着物を着こなし、着物のある生活を楽しまれていらっしゃる方々に話を聞いていきます。
第10回は、長野に住まいを移して着物の暮らしを始められた女性に、夏の着物や好きな着こなしなどについてうかがってみました。
▼昭和を感じさせる浴衣に帯を合わせて
<左>葉のろうけつ染め柄が昭和レトロな紺地の浴衣(母より)。薄紫色の絹素材の半幅帯を合わせて(骨董市で300円)。
<中央>千鳥と波文様に癒される白地の浴衣。祖母が着ていたもの。伯母からの沖縄土産、ミンサー織りの半幅帯を貝の口に結んで。
<右>自分で反物を買って母に縫ってもらった薔薇柄の紺地浴衣。リバーシブルの博多織半幅帯を文庫結びで若々しく(アンティーク着物屋で500円)
長野の夏は暑いですが、ふだんから着物を着る生活を楽しんでいます。家にいるときには、お風呂上りに浴衣を着て涼んでいることも多いです。亡くなった母が縫ってくれた浴衣と母や祖母が着ていた浴衣をじゅんぐり着回しています。なかでも最後に母に作ってもらった浴衣が気に入っていて、紺地に白い薔薇柄のすっきりしたデザインです。夏が近づいてくると、いちばんに箪笥から出して着ています。
いま町中でよく見かける浴衣は洋服に近い柄で色も鮮やかなものが多いですが、個人的には昔ながらの紺地や白地のどこか懐かしく感じる浴衣が好きです。浴衣に締める帯も抑え気味の色でほとんど無地に近いものばかり。考えてみると、浴衣も着物も洋服のときと同じような色合いでコーディネイトしていますね。母や祖母が着ていた紺や白の浴衣が原風景にあって、そのまま自分の好みになっているのかもしれません。柄もよく見ると大胆だったり、細かい絵が描かれていたり。いまお店に並んでいても選んでいると思います。
夏盛りに買い物や食事に出かけるときにも、ふだん使いの木綿や縮、紗、絽の着物を着ていくことも少なくありません。着付けも15分くらいでしょうか、簡単に自分で着ることができますから。夕餉の買い物には汚れてもいいような木綿や縮の着物を着て、買い物籠を持って出かけています。暑くてたいへんと思われるかもしれませんが、気持ちがしゃっきとして食材を選ぶ動きも速くなるように思います。 食事会のときは紗や絽ですね。見た目も涼しく、一緒に食事する方に喜ばれます。和食でも洋食でもどこへ行ってもその場に合うような、シックな色味でコーディネイトすることが多いです。夏でも冷房が効いて寒く感じるところもあるので、手に持っても軽い羽織を持ち歩くこともあります。
また、夏の着物に欠かせないのが手拭いです。そのときの気分や着物に合わせられるよう、いろいろ集めています。温泉の手拭いも色柄が気に入ったら、宿の方にお話してゆずっていただくこともあります。気に入ると同じものを使うことも多くなりますので、手にもしっくり馴染んできてますます手離せなくなりますね。
▲夏の羽織<左>
単衣の男羽織を仕立て直したもの。やさしい感じの灰色と手触り感が気に入ってアンティークの着物店で買う。食事会などの冷房対策に一枚あると便利
▲手拭いコレクションの一部<右>
左から。青と灰色の某温泉オリジナル、赤い豆絞り、小豆色の水玉模様、黄緑無地、水色蝶々柄入り緑地の手拭い。どれもよく使っているので、手にもしっくり馴染む
ふだんから着物を着るようになったのは10年くらい前、長野に移り住んでからです。山に囲まれた静かな環境の中、自分の時間を持てるようになって、これからは好きな着物を好きなだけ着ようと思ったんです。会社勤めしていたときは、着物が好きでも着ていたのは年に数回くらいでしょうか。
ただ着物屋巡りは好きでしたから、呉服屋やアンティーク着物屋さんを覗いて手頃な反物があれば買って仕立てていましたし、中古着物もお買い得な大島紬などを見つけたら買い集めてもいました。いつか少し前の時代の女性のように、毎日着物を着る生活をしたいと思っていたんですね。
いまは母や祖母の着物もありますし、着物を買うことが少なくなりました。その代わり、着物を仕立て直しする機会が増えています。この着物は随分着たから羽織にしましょう、着物の裏地にこの着物柄を合わせてみようかしらと、一人でいろいろ考える時間も楽しいです。
それからここで気兼ねなく、いろいろ相談しながら着物のお直しをお願いできる方と巡り合えたことも大きいです。私の着物生活がとても豊かになりました。その方のお直しの技術はすばらしく、いつも感心しています。それにご自身、着物をすてきに着こなされているんですね。その方とあれこれ着物の話をする時間はほんとうに楽しくて仕方がないです。
この間、行きつけのアンティーク着物屋さんに男物ですが、すてきな色の大島羽織があってどうしてもほしくて買ったんですね。それで自分用に仕立て直しをお願いするのに、その方にうちにきていただきました。裏地はどうしようか、着なくなった着物をいろいろ出しながら相談して、裏も贅沢に大島の柄物をあてることになりました。仕上がってくるのが待ち遠しいです。
私にとって、見えないところにもおしゃれを楽しめることが着物の魅力の一つでもあります。袷の着物でしたら、ちらりと見える八掛に目がいきます。着物の色は地味好みですが、それに合わせる八掛にこだわりがあって、母が着ていた着物や中古の着物などは裏の八掛だけ自分好みに仕立て直すこともあるくらいです。 着物のお直しはいろいろできます。皆さんも自分流のお直しを楽しまれてはいかがでしょうか。
すっきり白系の紗帯を締めて夕餉の買い物へ
着物 | 茶系幾何文様の夏着物。ざくざくとした肌触りで涼しく着られる。 |
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帯 | 白地のモダンな紗帯。すっきりとした色柄に涼味を感じる |
バッグ | アジアン雑貨屋で買った籠編みバッグ。夏になると夕餉の買い物用に持ち歩く。約300円 |
薄紫色の紗帯を合わせてすっきり夏を過ごす
着物 | 地模様が入った紺地の紗着物。夏のお出かけ着に重宝する |
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帯 | 銀色の小波模様が入った薄紫色の紗帯。品よく着られる。骨董市で約500円 |
半衿 | 紗の白い半衿ですっきりと |
帯締め | 青と白の清涼感ある夏の帯締め |
バッグ | 母の形見。姉妹で誕生日に贈った茶色のメッシュバッグ |
大胆な梅の花柄で凛と着こなす
着物 | 深みある紺茶色に亀甲花菱模様の本場大島紬。八掛けの薄小豆色が気に入っている |
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帯 | 地紋入りの紺地帯に描かれた梅の花絵がモダン |
帯揚げ | 紗の白い半衿ですっきりと |